パシフィック・スタンダード:手話が超能力となる日


手話が超能力となる日
コービー・マクドナルド

エミリオ・インソラはイタリアで育ち、子供の頃から映画製作をしたいという夢を持っていました。遺伝子的にも、祖母は有名な映画監督フォデリコ・フェリーニとも共演したこともある女優でした。しかしながら、幼き頃、インソレラが自身の夢を祖母に打ち明けた時にはあまりにも単刀直入に「ろうあ者のあなたには無理だからやめておきない。」と予想外の答えが返っていたと言います。
もちろん、インソレラがその教えを守る事はありませんでした。
4月13日にインソレラの初製作映画「サイン・ジーン -Sign Gene-」がロサンゼルスにあるLaemmleシアターにてアメリカデビューを果たしました。遺伝子変化により超能力を授かったろう者がスーパーヒーローとなる物語。この自主映画は3ヵ国で撮影され、出演者は全てろう者またはCOADと呼ばれるろうの家族で構成されています。インソレラはこの映画をろう者、また聴覚者の両方が楽しめるようにと製作を行ったとのこと。その背景にはこの映画を通して手話の豊かさを理解してもらいたいという思いがある。「ろう者は素敵で、創造的で、そして楽しい生活を送っている。」と通訳者を通してインソレラが語ってくれた。今まで映画の中でろう者は、孤立し、他人に依存し、そして悲惨な人生を送っているというような固定観念から描かれているが、インソレラはそれを覆えそうとしている。「そのような映画は時代遅れでつまらない、そして何の刺激の欠片もない。」
手話が超能力を生み出すという映画の内容は多くのろうコミュニティーから、かなりの反響を受けている。19世紀から20世紀には、チャールズ・ダーウィンが「ろう者と馬鹿と野蛮人によって」と侮辱したように、手話は原始的なコミュニケーション方法されてきた。
1900年代始め、ろう学校の教育者(ほとんどが聴覚者)は手話がろう者の社会適合を妨げるとして、アメリカやヨーロッパのほとんどのろう学校で手話を禁止した。
アレクサンダー・グラハム・ベルを含む有名学者は、手話の使用はろう者間結婚を誘発し、更なるろう者の増加を引き起こす可能性があると警告した。その間手話は秘密裏にろうあ者コミュニティーで使用され続け、文化と言語を共有していった。
1960年代、有名な言語学者ウィリアム・ストコエが手話言語の分野を開拓したことにより事態は一変。ストコエはアメリカ手話の文法構造を調査し、手話が実際にただのパントマイムのような動きではなく、他の言語と等しく複雑な文法構造と独特の言語として存在していることを認めました。また、ストコエは手話がただ英語を手で描いているだけに過ぎないという観念を取り除き、実際に手話は英語からはかなり独立した言語であり、独自の文法や構文を持っていると発表。1970年代の障害者に対する権利運動の始まりに連れ、学校での手話の禁止が解消され、ろう者の芸術、文化、そして誇りが爆発的に広がっていきました。
「一般的にろう者であることは欠落(聴覚機能のの欠落)と考えられています。」聴覚障害者のための世界初の大学として知られているワシントンD.C.のギャロデット大学のアメリカ手話言語学科のH・ディルクセン・バウマン学長は次のように述べています。「聴覚障害者の人生は決して何かが欠落したようなものではありません。全くの正反対で、とてもユニークで価値のある人生を送っています。聴覚機能に対しては喪失という言葉が使えたとしても、ろう者になれるという事は決して何かを喪失するような事ではありません。」
ガロデット大学出身者として、インソレラはろう文化に熱中しました。ろう言語学、ろう研究、また子供の頃からの夢であった映画を勉強したと言います。
「その時初めて、自身が共に成長してきた言葉や文化を学術的に理解した。そこで得た知識を、エンターテイメントを通して人々に伝えたい。」とインソレラは思いました。
インソレラは手話による超能力で戦うスーパーヒーローの物語を大学在学中に思いつきました。このアイディアは実際に手話が顔認識や空間情報の処理など、特定の精神機能を実際に高めることができることを示す研究に根ざしています。
バウマン学長は「もちろん映画は少しフィクション要素が混ざっていますが、手話は実際に直接的に脳の認知能力へ大きく関与している。」と言います。
2009年、インソレラは映画「サイン・ジーン」の製作を決定し、アメリカ・イタリア・日本の3か国での撮影の為の資金集めを行いました。ろうあ者と聴覚者、両者向けの映画を作成するというのは至難の技でした。映画の中のほとんどのシーンは手話(アメリカ手話、イタリア手話、日本手話)によって行われており、口頭でのセリフは数多くありません。口頭のセリフ撮影でのこんな苦い思い出を今でもインソレラは思い出すとの事。「OK。カット。今の良かったよ。」
そう言った矢先、他のクルー全員が笑い始めました。実はその出演者はまるっきりセリフを間違えていたそう。インソレラは(その時彼の口の動きを見ておらず気づかなかった)とても恥ずかしい気持ちでいっぱいでしたが「では撮り直し。」と平然を装ったと言います。
その他に苦労した点といえば、視聴者が混乱しない程度に、どのくらい、ろう文化のに背景を映画に含めるかという点でした。
「聴覚者のろうに対する理解を深める為に、基本的なろう歴史を入れる。しかし同時にろう者にとっては有名な話すぎて、ろう者が退屈してしまっては本末転倒である。ちょうどいいバランスを探すのが大変だった。」
映画「サイン・ジーン」は不可解な事件から始まる。アメリカの上院議員のろう者である娘が遺体となって日本で発見され、遺体からは何か超能力的な力によって殺害されたとみられる傷が残っていた。この不可解な事件を解決するため、アメリカ政府はQ.I.A(サイン・ジーン遺伝子を持つ者からなる秘密組織)から2人のエージェントを日本へ派遣した。
インソレラ演じるトム・クレークとダニー・ゴン演じるケン・ワンの2人のエージェントがサイン・ジーン遺伝子の抹消を図る1.8.8.0.と呼ばれる悪の組織が事件に関与していると疑意を持つ。
映画ではほとんどの聴覚者が知らないような歴史や文化を取り入れています。例えば、Q.I.A(クインパールインテリジェンスエージェンシー)のクインパーとは手話言語学の5つの音韻要素:手の形、動き、位置、方向、非手動的な信号を意味しています。エージェントのトム・クレークはアメリカに手話を導入したという、ろう歴史の中でも有名な教育者ローラン・クレークと同じ苗字を使用。また悪の組織1.8.8.0.は学校での手話使用を禁止する決議を行ったイタリアのミラノ会議にちなんでいる。
映画を見た後、聴覚者の視聴者は暗闇に落とされたようなそんな感覚に陥るとよく聞きます。しかしながら、脚本を書き、監督し、そして映画の主役でもあるインソレラは視聴者の反応はそれで良いと言います。映画を通して聴覚障害の経験をして欲しいと思っています。
聴覚障害児は、補聴器や人工内耳のような技術を使用する際に、奇妙で不自然な音がしばしば聞こえます。ただただ鬱陶しい音ですが、インソレラは「私はあえてその音を映画に取り入れることにしました。」との事。
「サイン・ジーン」には遊び心とスタイリッシュな実験的要素、時には視聴者をあっと驚かせるような要素が多く含まれます。(癇癪のある視聴者のために警告文が記載されています。)この映画には、息の止まるような手話を使った武術戦や映画「ブレイド・ランナー」のようなクラシックなSF映画を思い起こさせるような未来主義的な面などがあります。わずか2万5千ドルでこの映画は作成されたというのを、所々で感じることが出来、それが映画をより面白くしています。インソレラはさらにスケールアップいたものをハリウッドに提供できたらと願っています。
近年、特に映画産業はリスク回避の傾向にありますが、映画「ブラック・パンサー」やオスカーを受賞した作品「ザ・サイレント・チャイルド」などが成功したことによって、新しい分野の映画に希望の光が見えてきたようにインソレラは感じています。
「もっと多様的な分野のプロジェクトを刺激することが出来たら、そして映画業界の身を置く人々が更に挑戦し、こうしたタイプの作品にもっと投資することを奨励してほしい。」
今が絶妙なタイミングではないでしょうか。聴覚障害は様々なエンターテインメントに今現在、多く取り上げられています。今年のオスカー受賞作品のうち3作品に手話を話す登場人物が含まれています。お笑いコントショーの「ポートランディア」ではつい最近、アメリカ手話でのコントも放送されました。手話話者でろうであるモデル「ナイル・ディマルコ」はアメリカのモデル発掘番組「ネクスト・トップ・モデル」と他のダンシング番組で2015年、2016年に優勝を果たしています。
「健全な社会生態を図る1つの指標として、考え方や経験そして身体的な多様性がある。」とバウマン教授は述べています。
映画「サイン・ジーン」はまさに多様性の象徴です。映画を見終わった後、全く新しい世界を感じたと思わずにはいられないでしょう。

原文
https://psmag.com/social-justice/sign-language-is-a-superpower

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